オイルロード超大型タンカー12,000kmの旅「一航海の軌跡」Vol.3 ペルシャ湾~シンガポール海峡 1/4

なんでもこなす乗組員…船のメンテナンス

大型タンカーは定期的に造船所での整備工事を実施したとしても、約20年が寿命だといわれています。しかし、少しでも長くタンカーを使うことができれば、償却コストを減らせるだけでなく、資源保全にも大きく貢献できるはず――そう考え、OBM(On Board Maintenance)、つまり航海中に乗組員自らによる船舶の保全活動の促進を、出光タンカーではいち早く始めました。
通常航海中、乗組員は24時間体制の船橋当直、日中の整備作業や機関維持作業と重要な職務を行わなくてはなりません。
そのような忙しい航海業務の中で、ドックで行う修繕作業を乗組員自らの手で行う(OBM)というのは大変なことですが、甲板部では高さ約30mもある巨大なバラストタンクに海水を張り、組立に乗りながら足場を組んでタンク内部のサビを落としたり、広い甲板や大きな煙突、海面から遥か上の足もすくむような船橋ウィングの裏側を塗装します。機関部では大物のエンジン部品などの整備作業を行うなど、根気よく整備しています。

そんな地道な努力の甲斐あって、船舶寿命は通常より約5年も長くなり、ドックに入っている期間も短縮できるため、大きなコスト削減に繋がっています。


アポロマークの塗り替え

船の社会は、自己完結型の社会です。足場を組んだりするとび職のような作業から、塗装業まで、乗組員が船長のもと一致団結、なんでもこなしてしまいます。 クレーンで荷物を吊り上げるときに、荷物が落ちないようにバランスを考えて吊り上げる「玉かけ技能者」や、足場の高さが5m以上の構造の足場の組立て作業や解体を監督する「足場の組立て等作業主任者」などの資格を保有している乗組員もいます。また、事故や災害を未然に防ぐことを目的にその作業に潜む危険を予想し、指摘しあう「K Y T」という危険予知トレーニングを受講して、乗組員全員で安全作業に努めています。 そんな特技?を活かして、船のシンボルマークである居住区前面のアポロマークの塗り替え作業やファンネルトップ(排気管)の塗装作業なども乗組員で実施しています。

船の煙突は工場や銭湯の煙突のように見えている部分の中を煙が通っているわけではなく、その部分は化粧煙突で、中に何本もの排気管が通っています。写真の化粧煙突の天辺に見えている配管が排気管です。排気管は主機、ボイラー、ディーゼル発電機原動機、焼却炉など機関室の各所から煙突上部に導かれ排気されます。船ではこの化粧煙突の事をファンネルと言い、ここに描かれた各社のマークをファンネルマークと呼んでいます。写真の煙突で基部から約20mの高さがあります。
朝一番に開始した作業も、夕方には終了。夕映えの中に、ドレスアップされたアポロマークと、銀色に渋く輝くファンネルトップを見つめながら、胸にかすかな高揚感を覚えます。

ページトップへ遷移