超大型タンカーの定期健康診断「日章丸」のドック工事 Vol.3「ドック中の生活」

前回はドック工事の作業例を紹介しましたが、今回はマレーシア・シンガポール地区にドック中の生活について少し触れてみたいと思います。

ひとときの楽しみは食事

さて、毎日激しいスポーツをしたとき以上の汗を流しながらドック工事に携わっていますが、仕事以外の生活についても簡単に触れてみたいと思います。
まず宿舎ですが、原則として乗組員は本船に寝泊まりしています。ここでは、船内泊という言葉で話を進めます。(乗組員以外の出張者はホテル泊となります。)

船内生活は航海中とほぼ同じで、午前7時頃から朝食をとり、午前8時には乗組員達が作業開始前のミーティングを実施しそれぞれの仕事が始まります。ドック側の作業員が本船に乗船して作業にかかるのが午前8時15分頃からとなりますので乗組員もそれに合わせて、それぞれ担当する区域を見回り、工事状況をチェックしたり本船の分担作業に取り掛かります。ドック作業員は、必要に応じて残業をしていますので、場合によっては夕食以降も立会いが必要になることもあります。ドック工事は、休日に関係なく実施されていますが、乗組員は順番に休暇を取ります。休暇の過ごし方はいろいろですが、日本人乗組員で休暇用のホテルが必要な場合には、ドックに依頼してホテルを予約します。

ドックのある場所は一般的には買い物に不便な場所なので、ドック中は公共交通機関が利用できる場合を除き、通船バス(本船と陸上間のフェリーボート)を出しています。通船バスは、夕食後の午後6時30分頃本船を出発する便と、午後10時頃、指定場所から本船へ戻る便になります。この通船バスは、本船の船長がドックの場所や工事の状況、その時の社会情勢などを勘案して、時間や日にちなどを決めて手配します。したがって時と場合によっては、通船バスの無い場合もあります。通船バスを利用できない場合には、タクシーを利用することになります。通船バスの時間以外に出かけて飲むこともありますし、帰りのバスの時間より遅くまで飲んでいたりすることもあるので、タクシーを利用する人は結構多いようです。

船内での食事はフィリピン人コックが日本食を、朝、昼、晩とも供食しています。とは言え、夜に気の合う仲間で食事に出かけたりもします。シンガポール地区では食事の種類にはこと欠きませんが、和食を食べようと思うと割高になりますし、朝早くから夜遅くまで営業している屋台風の大衆レストランが町のあちらこちらにあり、値段も安く、おいしい料理(中国各地・タイ・マレー・インド・韓国料理など)が味わえるので、こうした場所での食事が結構多くなります。

  • 皆が集う食堂

    皆が集う食堂

  • ギャレー(船内の調理室)

    ギャレー(船内の調理室)

また、食事にアルコールは欠かせません。屋内のレストランでは冷房が効きすぎていて、ビールの美味しさは半減といった感じですが、屋台では気温の高さと昼間の大汗のお陰で、飲むビールのなんと美味しいこと。また、いくら飲んでも酔わない気がします。 しかし、食事の割りに酒類は値段が高く設定されていて、支払いの時は半分が飲み代金となってしまいます。ただし、マレーシアでは、お酒を出さない場所もありますので、食事を注文する際には確認が必要です。

さて、食べるもので、忘れてはならないのが果物です。シンガポールは自由港で、周辺国からトロピカルフルーツがたくさん集まって来ますし、マレーシアでもフルーツがたくさん手に入ります。季節にもよりますが、果物の王様「ドリアン」(独特の臭いのため、公衆の集まるレストランやホテル、飛行機等には持ち込みが禁止されていますが)、果物の女王「マンゴスティン」を初め、日本ではほとんど食べることのできない珍しい果物が安く手に入ります。梨やリンゴもシンガポール地区で日本産のものが手に入るようになりました。一般的に手にする梨やリンゴは小さく、甘味も少ないので、日本で栽培された梨やリンゴが世界で一番美味しいのかもしれません。食事の後のお楽しみは、ナイトクラブやカラオケバー等といったところでしょうか。

最近はナイトクラブの数も増えて、ほとんどがカラオケルーム形式になり、従業員も他国からのアルバイトが増えてきているようです。カラオケルームといっても20人以上入れるような大きな部屋でカラオケが楽しめます。値段は日本とあまり変わらないですが、ひと時の楽しみを得て、明日へのエネルギーを蓄えます。

休暇は、連続で取れる場合もありますので、観光やショッピングもドック中の楽しみの一つです。何をするにしても、ドックが決まった時点から「ドック地」の情報を収集し、情報交換をしてからドックに入りますので、ドックに行ってから慌てる人はほとんどいないというのが実態です。最近では、海外でのドックがほとんどで、ドック地も限定されていますので、あまり海外ドックを経験したことのない乗組員以外は、お土産を探す人は減ってきています。

  • 食後のフルーツジュースに大満足

    食後のフルーツジュースに大満足

  • マサイ市街(マレーシア ジョホール)

    マサイ市街(マレーシア ジョホール)

出港までの最終仕上げ

さて、ドック工事も終わりに近づき、出港3~4日前になると、開放した各機器や配管等は復旧し、ほぼ稼動可能な状態に戻っています。ドック工事では、色々な作業を実施しましたので、工事終了後にそれぞれが完全な状態になっているかどうかを点検する必要があります。 まずポンプ類が正常に動くかどうか、次に開放した箇所が完全に締め付けられているかどうかの水圧検査を実施します。貨油ポンプやタービン発電機を動かすためには蒸気が必要ですので、ボイラーを立ち上げ、ボイラーの運転状況を確認してから、貨油ポンプの運転確認を実施し、開放した貨油の配管や弁のリークチェックを兼ねて配管の圧力テストを実施します。このとき、タンクの中の工事箇所に忘れ物や汚れなどがないかも併せてチェックします。その他の機器についても順次、各システムが正常に働いているかどうかをチェックしていきます。また、各工事箇所の清掃状態も確認します。
主エンジンは、係留中に起動確認運転を行いますが、充分な確認ができない為、ドックの岸壁を離れてから出港前に試運転を実施します。試運転で異常が無ければドックエ事完了、本船は正式に出港となります。ドック工事仕上げの確認の間に、不具合が発見されると当然修理することになりますが、残りの工期はごくわずかな為、いつにも増してすばやい対応が必要になります。工事復旧から試運転終了までの数日間は最も緊張が強いられ忙しい期間となります。

  • 原油が入るとゲージが上がるタンクレベルゲージの確認

    原油が入るとゲージが上がるタンクレベルゲージの確認

  • 原油が流れる主配管

    原油が流れる主配管

  • 工事後の甲板清掃

    工事後の甲板清掃

  • 完工して岸壁より離岸開始

    完工して岸壁より離岸開始

再びオイルロードへ

出港すると、乗組員は通常の船内生活に戻りますが、ドックエ事で使用した特殊工具の整理や積荷を行うための準備としてタンク内にイナートガスを注入したり、甲板上や機械室の掃除などの後始末がある為、落ち着いた航海に戻るのはこの次の航海になるでしょう。 ドックの試運転関係者や本社からの工務担当者や出張者は、試運転の終了をもって本船とお別れをして出港を見送ります。 下船者を乗せた通船はドックヘ向かい、本船は積地に向けて航海を始めます。 本船の船影が徐々に遠ざかっていく時、ドックエ事の準備開始から終了、出港までの約6ヶ月間、一つの仕事の大きな区切りを終え、「ああ、やっと終わったなぁ」と何ともいえない感情が湧き上がってきます。

試運転後、関係者が見送る中、再び航海へ

試運転後、関係者が見送る中、再び航海へ

掲載日 2009年9月30日

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