バイオテクノ人

バイオテクノ人・出光の挑戦/人と地球が潤う未来へ

「粉1キロが、水1トンを吸収?」

1994年、9月。
九州大学農学部、原准教授の研究室で、耳掻き一杯ほどの白い粉が入ったビーカーを見つめながら宮山は言った。

「そう、今のところ1000倍ぐらいまでは吸収できるね。」
そう言いながら、原准教授は静かにビーカーへ水を注いだ。
すると、その白い粉はサッと水に溶けて消えた。
いや、溶けたように宮山の目に映ったあと、
ビーカーからあふれ出るぐらい大きなゲル状の塊になった。

「触ってごらん。いわゆるゼリー状になっているけど、溶けたわけじゃない。
逆に、注いだ水がすべてあの粉の中に入った、つまり吸収されたんだね。」

「…面白い粉ですね、これは。
だけどいったい、何に使えばいいんでしょう?」
自分の指で、そのゼリー状の物質の感触を確かめながら、
宝物を見つけた子供のような顔をしている宮山に、原准教授は言った。
「それを見つけるのが、これからの宮山君の仕事だね。」

当時宮山は、新しい開発テーマを見つけるために、何かネタはないものか…
と、しばしば原准教授のもとを訪れていた。
そんなある日出会ったのがこの白い粉、−それから彼が開発を続け、
そして恐らく終生のライフワークとなる−新しい吸水ポリマーであった。

「純度を上げれば、吸水性はもっと高くできると思う。
少なくとも5000倍ぐらいは可能だろうね。」
いかにも水をたくさん吸い込めそうな、蜂の巣のような構造をした顕微鏡写真を、
宮山に見せながら原准教授は続けた。
「実は、この吸水性ポリマーは納豆の糸の成分、つまりアミノ酸なんだ。
だから土にまいたって、自然に分解されるから地球にも優しい。」
「どうして土にまくんですか?」

「たっぷり水を含んだこのポリマーを土にまけば、
きっとどんな乾いた土地にだって、植物が育つ。
…僕の夢はね、いつかこのポリマーで、砂漠の緑地化を実現することなんだ。」

化学農薬の市場は当時、日本全体で約4000億円。
食の安全への関心が高まっているこの世の中で、生物農薬の需要が、そんなに低いわけはない。
知ってもらえさえすれば、必ず売れるはずだ。
だがどうすれば、もっと農家の方たちに知ってもらえるのか。

「こんなコストじゃ、商売にならないよ。」
新しい吸水ポリマーとの出会いからすでに5年。
開発を続けていた宮山は、ある壁にぶつかっていた。
出光という企業の中で、その開発を行う以上、
その製品はビジネスとして成立しなければならないだが
1kg製造するのに、50万円ものコストがかかるそのポリマーを、
使えるのはいったいどんな商品なのか。

「一枚ン万円の紙おむつなんて、つくるメーカーがあるわけない。」
時にそんな社内の声を耳にすることもあった。
−製造コストの低減。性能(吸水性)のさらなる向上。
納豆菌を使うがゆえの、出来あがる製品の質のバラツキ。−
商品化のための壁は、いくらでもあった。
だが宮山は当時の上司たちに、平然と嘯き続けた。
「出光が開発をやめるなら、僕が会社を移ってでも続けます。ライフワークですから。」

「天然成分なのに、サラサラしてるね。」
2001年10月。
ある化粧品メーカーの役員は、宮山のポリマーをひと塗りするなり目を光らせて言った。
「いけるね、これは。」

その頃すでに宮山や同僚の大山たちは、
ポリマーの製造コストを当初の半分以下まで抑えることに成功していた。
さらに10数社にも及ぶ製造委託先との交渉によって、
量産化技術、品質管理体制、化粧品向けに肌触りを向上させる微分散技術についても
十分に目処が立つようになっていた。

−化粧品メーカーならば、必ずこの素材の効果を理解してくれる。−
その読みどおり、この日宮山たちの吸水ポリマーは、
ついにその可能性の一つを現実の商品に変えた。
そして2006年現在、宮山たちのポリマーは、保湿クリーム、美容ジェル、クレンジングから、シャンプー、コンディショナーまで、幅広い美容製品の中でその吸水性を発揮している。

「まだまだこれからですよ。さらにたくさんの商品化を実現して、
もっと製造コストを抑えないと。」
宮山はそう言う。
「だって今のままじゃ先生の夢…かなえられないですから。」
未来の地球の潤いに向け、12年前に出光へ託された夢は、
今日もまた一歩、その実現へと向かい続けている。

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