冷凍機油人

冷凍機油人・出光の挑戦/地球の空を守るオイル

「ドバッ」と…って、どれぐらいの量?

何千という候補から選んだ添加剤を、ベースとなる油に少しずつ混ぜ合わせて変化を分析していく。 その混合の比率はこれまで、ドラム缶1本の油に対して、1L ビーカー1杯といった程度でした。 それに対して、新しい潤滑油開発ではドラム缶一本の油に対し、1L ビーカー10杯分もの添加剤を混合。 いわば豪快とも言える実験を行ったことが、新しい潤滑油開発を成功へ導くきっかけになったのです。

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「今さら、遅いんじゃない、出光さん。」

受付のソファーで待っていた山根の前に、姿を見せたA社の担当者が、
最初に放った言葉はそれであった。

遡ること1987年。
世界的に知られたモントリオール議定書で、南極大陸のオゾンホールなど、
オゾン層の減少に影響を与える物質として、
あるフロン化合物の使用を1995年末までに全廃することが決定された。

〈フロンR12。〉
当時、すべての冷蔵庫とカーエアコン用の冷媒として使用されていたそのフロンの規制は、
冷凍機メーカーはもとより、その冷凍機用の潤滑油を供給していた出光にも、
大きな衝撃を走らせた。

「ずいぶん前から他社さんは、開発はじめているみたいですよ。」
担当者は続けた。当時すでに、世界で高いカーエアコンのシェアを誇っていたA社としては、
R12に変わる冷媒のカーエアコンを、1日も早く完成させなければならない。
だが、そのためにはまず、新しい冷媒のための、潤滑油を開発することが最大の命題であった。
「大丈夫です。私どもにまかせてください。」
当時、出光の冷凍機油グループ、需要家担当であった山根が、
その時、力強くたたいてみせた胸の中にあったのは、自社の技術者たちへの厚い信頼と、
これは絶対に負けられない、という意地だった。

「R134aだ。R134aに溶ける油をつくってくれ。おい、聞いてるか?」
……やはりR134aか。
受話器の向こうから届く、チーフエンジニアの高木の声を聞きながら、
冷凍機油開発担当の金子は、新しい冷媒に対する自分たちの予測が外れていなかったことに、
これまでの道筋、そして今後の開発への自信を深めていた。
冷媒が決まらなければ、潤滑油の開発には着手できない。
だがその冷媒は、多くの選択肢の中からメーカーが決めるまでは、何になるのかわからない。
R12と同じフロン化合物でありながら、オゾン層に悪影響を及ぼすことのないR134a。
様々な新冷媒の可能性に対して、潤滑油の研究をはじめながらも、
気ばかり焦る日々をすごしていた高木や金子たちにとってその日は、
ついに新しい潤滑油開発の、本格的なスタートを切ることができた日となった。

「もっと、ドバッと混ぜたほうがいいんじゃないの?」

金子は言った。
何千という候補から選んだ化学物質を、
少しずつ、少しずつ混ぜ合わせながら、微妙な変化を分析していく。
それがこれまでのオイル開発の定石であった。
しかし開発をはじめて1年がたった今、基材開発担当の川口たちが合成した、
基材は優に100を超えている。基材のメドはたってきた。
しかし、添加剤の配合が決まらない。

「チマチマ合成するやりかたでは、もうダメだと思うんだ。めぼしい素材を、
もっとこう、今までの10倍ぐらい混ぜてさ、もっと大きい可能性から探していこうよ。」
それが、その後の潤滑油開発の成功を、一気に引き寄せることとなる一言になった。

「そうドラム缶1本。いつ納品できます?」
潤滑油のテストは、耐久性のテストである。
実験室の中で、何10台ものカーエアコンに試作オイルを供給し続ける。
新たな課題が出てくると、また改良を繰り返す。
最初は数時間で、摩擦で真っ黒になってしまった試作オイルが、改良を続けるうちに、
1日稼動させても大丈夫、3日動かしても大丈夫、とその実績を積み上げてくる。
同時に1ℓ単位で納品していたオイルが、次は18ℓ缶で、そして次は200ℓドラム缶で、
と増えていく。開発開始から、1年半がたったその日、
A社からのオーダーは、ついにドラム缶をこえた。

1991年、A社は世界にさきがけて、R134a冷媒を使用したカーエアコンを発表。
その後、世界で生産される自動車から、フロンR12を使用したカーエアコンが全廃されたのは、
モントリオール議定書の期限である1995年末まで、
あと1年をのこした1994年末のことであった。

「『会社のためにがんばった!』ていう感じではないんですよね。だからって、
『地球のためにがんばりました!』なんていう気もないんですけど。」
「強いて言えば、“出光”というブランドへの信頼に応える開発者としてのプライド、
とでも言えばかっこ良いんでしょうが…」
そう照れたように、笑いながら話す金子の瞳は、よくはれた日の空のように、
深く澄みわたっていた。
そして、今またその瞳の中には、
地球温暖化防止のための新しいターゲット(自然冷媒|CO2への変更)に向け、
新たな開発の設計図が描かれ始めている…。

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